渋谷のTSUTAYA

 「10月16日で渋谷のTSUTAYAのレンタルが終了するらしい」とツイッターで見かけて知ったのが10月15日のこと。え、明日じゃん。まじかあ。

 わたしの知る限りでは、旧作4本400円で借りられるのは渋谷のTSUTAYAだけだったので、昔の映画を借りに何度か足を運んだことがある。当時は横浜に住んでいて最寄駅にもTSUTAYAはあったというのに、東横線に乗ってわざわざ渋谷まで繰り出していた。王家衛もジム・ジャームッシュも、ソフィア・コッポラの『SOMEWHERE』もウディ・アレンの『マンハッタン』も、全部渋谷のTSUTAYAで借りて観たんだった。エドワード・ヤンの『恐怖分子』とかゴダールの『勝手にしやがれ』だって、ここで借りたんじゃなかったかな。あのラインナップの豊富さとか、あそこの洋画の棚を端から端までじっくり眺めて、何を借りようか迷ってウロウロした時間が今の楽しい映画生活(楽しい映画生活?)に間違いなく繋がっているというのに、あそこではもう借りられなくなっちゃったのか。それはちょっと寂しい。

 『恋する惑星』のDVDを初めて手に取ったときのわくわくした気持ちをいまだに覚えている。振り返ればこれが王家衛作品との出会いでありアジア映画の原体験なので、わたしの個人的な映画史の中では間違いなく大きな転換点だと思う。『恐怖分子』を観て衝撃を受けたのも、その後目黒シネマで『恋する惑星』と『天使の涙』の2本立てを観たのも同じ頃。Filmarksを眺めた感じ、その後『ポンヌフの恋人』とか『バグダッド・カフェ』『あの頃ペニー・レインと』『台北ストーリー』『花様年華』あたりも渋谷で借りてるっぽい。これは記憶というか感覚みたいなものなので上手く説明できないんだけど、明らかにNetflixで観た映画よりも自分の中に大きな痕跡として残っている。

 もちろん「良質な映画体験」としたら、映画館で観るに越したことはないんだろう。けど、こうして自分の中にある映画史を振り返ってみると、渋谷のTSUTAYAとか、かつて実家の近くにあったレンタルビデオ屋の映画コーナーを長いことウロウロして、そうやって心に決めた映画をレンタルする、というのもまた「映画体験」のひとつで、わたしの映画史の礎とも言える部分を築いていると思った。NetflixやAmazon Primeのホーム画面ではできない体験、画面上ではおそらく培うことのできなかった歴史。そんな場所がまたひとつ減ってしまった。

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